耳を澄ませると聴こえてくる音や、窓から差し込む光の移ろい。目には見えないけれど、私たちの心を確かに揺らすもの──。
KANADEMONO が今回コラボレーションをしたのは、音楽ジャケットを中心に30年にわたり数々の名盤に視覚的な命を吹き込んできたグラフィックデザイナー・アートディレクターの藤田二郎氏。
私たちからの問い、「『KANADEMONO のある暮らし』で流れる音と時間とは?」をテーマに描かれた【Passage】や、昨年のイベントの空気感を共有する【Resonance 1】は、いかにしてラグやポスター、マグカップといった「日常の道具」へと姿を変えたのか。作品に込められた温もりと、空間に生まれる時の流れを紐解きます。
目に見えない「音」を、
デザインへと翻訳する

─── 藤田さんは普段どういったお仕事をされているか、改めてお伺いさせていただきます。
藤田氏(以下敬称略):アートディレクター、グラフィックデザイナーとして、主にCDやレコードジャケットなど音楽に関わる仕事に携わっています。その他、書籍やロゴ、宿泊施設やシニアレジデンスといった空間に関わるアートワークなど、幅広く活動しています。
近年は企業やブランドとのコラボレーションも増え、「渋谷カルチャープロジェクト」への参画や、KANADEMONO さんとご一緒した「MEET YOUR ART FESTIVAL 2025」で自身のアート作品を発表する機会もいただきました。

─── 藤田さんは約30年間にわたり、数々の著名なアーティストの音楽ジャケットを手掛けられてきましたが、目に見えない音楽を視覚化する際、どのようなことを大切にされているのでしょうか。
藤田:まずは音を聴き込み、自分の身体に入れること。音楽は目に見えないので、それを目に見えるデザインへ「翻訳する」感覚です。「イメージは青」と言われても、すぐ青を使うのではなく、なぜ「青」なのかを耳で聴いて吸収し、模索した上で自分が感じた「青」を提案します。

藤田:また、制作過程の「熱量」も大切です。制作側の熱量が80でも、リスナーに届く頃には60になってしまうかもしれない。だからこそ高い熱量を共有して進めたいのです。
印刷物になる過程で原画の迫力はどうしても薄まりますが、ぱっと見た瞬間に、音楽や制作過程にあった熱量の名残を感じてもらえるよう意識しています。音楽の持つ空気や温度、色や質感を汲み取り、どう置き換えるかを常に考えています。
今回のコラボレーションについて

─── 今回、KANADEMONO とコラボレーションしようと思われたきっかけを教えてください。
藤田:昨年の「MEET YOUR ART FESTIVAL」で実際にご一緒した際、スタッフの皆さんと接する中で、一つひとつの商品に対する思いや、ものづくりに対する熱量を強く感じたんです。
藤田:Instagram などでユーザーの方々の事例を拝見していても、それぞれの暮らしの中に家具やアートを自然に取り入れていらっしゃって、そうした空間づくりへの感度の高さにも惹かれました。
KANADEMONO さんとなら、自分の作品が暮らしの中でどのように存在していけるのかを考えられるのではないかと思い、ぜひご一緒したいと思いました。

─── 今回のコラボレーションの原画として新たに描かれた作品は「『KANADEMONOのある暮らし』で流れる音と時間とは?」という問いに対する答え。どのような風景を思い描きましたか?
藤田:KANADEMONO さんの家具には、シンプルでありながら、使う人の暮らしや個性を受け入れてくれるような「余白」がある印象を持っています。今回イメージしたのは、そうした家具に囲まれた、落ち着きがありながらもどこか開放感のある空間です。
きれいに整えられすぎた部屋というよりは、そこに人の暮らしがあり、好きな本や物が置かれ、自然に音楽が流れているような空間を思い浮かべました。

藤田:窓から入る光が時間とともに変化して、同じ部屋でも朝と夕方では少し違って感じられる。そこに流れる音楽によっても、そのときの空気や気分が変わっていく。
家具、光、音楽、そこにいる人がそれぞれ主張するのではなく、自然に混ざり合ってひとつの居心地をつくっている、そんな空間をイメージしています。

─── 目に見えない「音」や「時間」を描くのは非常に難しく感じます。どのような瞬間からインスピレーションを受けているのでしょうか。
藤田:日常の中で、ふと見慣れた風景が違って見える瞬間があります。夕方になって光の色が変わったり、あるいは音楽を聴いていることで、同じ場所なのに少し違って見えたり。
たとえば、何気なく入ったコンビニで、20代の頃によく聴いていた曲が流れてきて、一瞬で当時の自分やその頃の風景に連れ戻されるようなことがありますよね。音楽には、時間を飛び越えて記憶を呼び起こす力があると思っています。そうした日常の中にある些細な変化や、不意に時間がつながるような感覚に惹かれますし、作品の中ですくい取れたらと思っています。
◼️コラボレーションアイテムの元となった原画2作品
【Passage】作品解説
KANADEMONO の家具に囲まれた部屋に満ちる音楽の、波形やリズム、空気感を重なり合う色彩として捉えました。様々な色が混ざり合うことで、異なる音楽や音色が溶け合い、空間にひとつの響きを生み出すさまを表現。
その中で、濃く立ち上がる色は、躍動や抑揚を表現し、音の輪郭や強弱を印象として浮かび上がらせます。また、アートワークの一部をトリミングすることで、朝・昼・夜へと移り行く時間軸も表現しています。
【Resonance 1】作品解説
例えば洋楽などを聴いたときに、言葉の意味はわからなくても、音や声の響きが頭の中に残り続けることがあります。それは、理解ではなく感覚として刻まれるリズムや音のかけら。
この作品では、そうした“理解できなくても確かに残るもの”を、文字のようで文字ではない形として描いています。音が消えた後もリフレインのように巡り、記憶の奥で揺らぎ続ける、その残像を映したものです。
暮らしとアートの関わりとは

─── ご自身はアートやインテリアをどのように楽しまれていますか?また、『飾るアート』と、KANADEMONO のプロダクトとしての『日常で触れるアート』。その2つに違いはあると思いますか?
藤田:以前、ギャラリーで佐藤翠さんの大きな絵に一目惚れして購入して以来、ジャンルや知名度を問わず、いいなと思った作品を少しずつ集めています。
原画には絵具の重なりや質感といった存在感があり、ポスターはより身近に作品を取り入れられます。ラグやマグカップなどのプロダクトになると、触れたり使ったりすることで「眺めるもの」から「日常で使うもの」へと変化し、距離がさらに近くなる面白さがあります。光や気分で見え方が変わり、長く一緒に暮らすことでまた違った特別な存在になっていくと思います。

藤田:ただ、アートも本来もっと生活に近いものでいいと思っています。原画でもポスターでもプロダクトでも、毎日接しているうちに、その日の気分によって違って見えたり、最初は意識していたものが、いつの間にかその部屋に馴染んでいたりする。
そう考えると、それぞれ作品との距離や触れ方は違っても、最終的にはどれもその人の暮らしの一部になっていくものなのかもしれません。
─── 今回のプロダクトは、どんな空間やシーンに溶け込んでほしいですか?
藤田:空間のスタイルを問わず、作品のいろいろな色が、部屋の何かの色と偶然つながるような面白さを楽しんでいただけたらと思います。今回のプロダクトを通して、日常の中でふとした瞬間に、作品との新しい距離感や関係性を発見してもらえたら嬉しいですね。
キャンバスから生活の中へ

─── ご自身の作品がインテリアやマグカップという『日常の道具』になった姿を見て、最初にどう感じられましたか? ここからは、商品開発をともに担当した KANADEMONO の落合も交え、プロダクト誕生の裏側に迫ります。
藤田:純粋に面白かったです。自分がキャンバスの中で考えていた色や形が、サイズも素材もまったく違うものになって、生活の中に入っていく。特にラグのように人がその上を歩くものや、マグカップのように手で触れるものになると、作品との距離が一気に近くなる。
自分の作品が、素材や用途が変わることで、これまでとはまた違った表情に見えたのが新鮮でした。

落合(KANADEMONO・商品開発担当/以下敬称略):この企画で私たちが届けたかったのは、藤田さんのアートが載った「モノ」ではなく、音楽が流れている空間そのもの── 足を踏み入れた瞬間に没入できる体験でした。
床|ラグ ― 空間の土台として
壁|アート ― 世界観の中心として
点|マグ ― 一番身近な暮らしとの接点として
そして、空気|香り ― 目に見えない没入感として。
藤田さんの色彩の豊かさを損なわないよう、プロダクトごとに藤田さんと色味を確認しながら、一点ずつ調整を重ねています。
ラグ

─── キャンバスから大きなテキスタイルへと表現が広がる中で、こだわった部分や質感のニュアンスを教えてください。
藤田:MIYOSHI RUGさんに制作していただいた大判のラグは、原画にある色の重なりや微妙なニュアンスを残すため、可能な限り色数を増やしていただきました。
例えば、【Resonance 1】をもとにしたラグでは、ベースとなる紫と、ラインの青のみにも見えますよね。実はこの青には2色を使っています。これは原画にある、筆致の濃淡や凹凸を表現するために MIYOSHI の職人さんが提案してくれたものです。
図柄をただ忠実に再現するのではなく、ラグという素材で作品のニュアンスを生かす方法を一緒に考えてくださったことに、深く感動しましたね。

落合:ラグでは、藤田さんが描く音楽(音)や時間の「形のない曖昧さ」を表現するため、あえて有機的な変形シェイプを提案しています。毛足を通常より長く設定し、職人の手を加えることで、色が混ざり合う境界をあえて曖昧にし、平面の絵にはない奥行きを生みました。
マグカップ

─── マグカップはどのように形作られたのでしょうか?
藤田:今回、NIKKO さんのボーンチャイナでマグカップを作っていただけるということも、とても嬉しいことでした。実際に手にすると、器そのものの佇まいや質感がとてもきれいなんです。
落合:アート作品を美しく映し出すのには、「ボーンチャイナ」の透き通るような白さと、繊細な色彩を再現する優れた技術力がぴったりでしたね。
藤田:マグカップの柄は、【Resonance 1】の「音の余韻」を表現した線と、【Passage】の色彩を組み合わせています。デザインも全面を埋めるのではなく、その白さや余白を生かすことを意識しました。異なる作品ですが、どちらにも「音」や「時間」という共通した感覚があり、それがひとつのマグカップの中でつながっています。

─── このマグカップを手に取る人にとって、どんな感情や時間の経過を感じてほしいですか?
藤田:マグカップを手にして何かを飲む時間は、ほんの数分でも、日常の流れが少し止まる瞬間だと思っています。朝でも、仕事の途中でも、夜でもいいのですが、自分の好きなものを飲みながら、ほんの少し気持ちが切り替わる。
今回の作品のテーマにも「時間」があるので、そういう何でもないひとときと自然につながってくれたらいいなと思っています。
特別なことを感じてもらうというより、その人の日常の中に自然に存在してほしい。好きな飲み物を飲みながら何となく絵柄を眺めたり、毎日使っているうちに少しずつ愛着が生まれたり。そんなふうに、その人の暮らしに少しずつ馴染んでいってくれたら嬉しいです。
アートポスター+フレーム

─── ポスターを壁に掛けたとき、空間にどんな空気をもたらすことを期待されていますか?
藤田:今回のポスターは、原画【Passage】をもとに「朝・昼・夜」という時間の移ろいをイメージした連作として展開しています。
落合:今回のアートフレームは、コラボレーションの特別仕様なんです。藤田氏の鮮やかな作品をより引き立たせるため、作品の周囲に厚みのある「マット(台紙)」をあしらいました。

藤田:音楽には、鳴っている音そのものだけでなく「間」があり、音が消えたあとにも余韻がありますよね。今回の余白は、単に作品を見やすくするためではなく、そうした「間」や「余韻」を視覚的に表現するもの。
朝の光や夜の照明の下で見ることで、時間とともに少しずつ表情が変わっていく面白さを感じていただけたら嬉しいです。
ファブリックミスト

─── ファブリックミストは、空間の中でどのような役割を果たしてくれるでしょうか。
藤田:ファブリックミストは、音楽やアートと同じように、その空間の空気や、そこで過ごす人の気分を少し変えてくれるものだと思っています。特に香りは音楽と同じように目には見えませんが、同じ部屋でも、香りが変わるだけで空間の感じ方が変わりますよね。
朝、昼、夜と時間が移っていく中で、気持ちを切り替えたり、その時間を少し心地よいものにしてくれたりする。インテリアを構成する、目には見えない大切な要素のひとつなのかなと思います。

藤田:今回は、KANADEMONO さんからのご提案で、調香師の津田啓一郎さんにアートワークを見ていただいた上で、それぞれのイメージから香りを調香していただきました。
自分は普段、目には見えない「音」をどう視覚に置き換えるか、ある意味「翻訳」するような感覚でデザインや作品を作っています。今回は逆に、自分が描いたアートワークを調香師の方が「香り」という目には見えないものへ置き換えてくださった。そのプロセス自体がとても興味深かったです。
※本ファブリックミストは MEET YOUR ART FESTIVAL 2026 に向けた特別試作アイテムのため、現在販売は未定となっております。
アートは、ふと目に入る「日常」に

─── 最後に、これらのプロダクトを自宅に迎える方へメッセージをお願いします。
藤田:僕は自宅で仕事をしているので、朝コーヒーを飲みながらぼんやりと絵や写真を眺める時間をとても贅沢だと感じています。アートは常に意識して鑑賞するものというより、日々の暮らしの中でふと目に入るだけでもいいと思うんです。
すごくミニマルな部屋でもいいですし、本やレコード、好きなものがたくさん置かれた部屋でもいい。今回の作品にはいろいろな色が入っているので、その人の部屋にある何かひとつの色と偶然つながったりするのも面白いと思っています。
そして毎日生活していくうちに、最初は「作品」として意識していたものが、いつの間にかその空間に昔からあったもののように馴染んでいく。そんなふうに、その人の暮らしの一部になってくれたら嬉しいですね。

アート・ディレクター/グラフィック・デザイナー。Calm、Nujabes、Uyama Hiroto、藤原さくら、桑田佳祐、橋本徹(SUBURBIA)監修の「Good Mellows」シリーズなど、メジャー/インディーズ問わず数多くのCDジャケット・デザインを手掛ける。また、書籍のアート・ディレクションや日本科学未来館プラネタリウム・コンテンツ「MEGASTAR-Ⅱcosmos」公式パンフレットのアート・ディレクション等、その仕事は多岐にわたる。
近年は渋谷ストリームホテル(旧名称:渋谷ストリームエクセルホテル東急)のアート・ディレクションとアートワーク、伊勢丹新宿店のディスプレイ、国内最大級のヴィラ「Wellis Villa Awaji」のアートワークなど、空間に携わる仕事も数多く手掛けている。
Instagram:https://www.instagram.com/fjdfujitajiro/